池波正太郎の数多い小説の中で、頻繁に出てくる一節がこれ。
つまりは、人間というもの、生きて行くに最も大事のことは……
たとえば、今朝の飯のうまさはどうだったとか、今日はひとつ、なんとか暇を見つけて、半刻か一刻を、ぶらりとおのれの好きな場所へ出かけ、好きな食物でも食べ、ぼんやりと酒などを酌みながら……さて、今日の夕餉にはなにを食おうかなどと、そのようなことを考え、夜は一合の寝酒をのんびりとのみ、疲れた躰を床にのばして、無心にねむりこける。
このことにつきるな。
池波正太郎 「鬼平犯科帳 七」
言葉は違えど、同じような意味合いのことが、折に触れて語られています。
「ひとはな、平八郎」
「は……」
「ひとというものは、物を食べ、眠り、かぐわしくもやわらかな女体を抱き、そして子をもうけ、親となる……つまり、そうしたことが停滞なく享受出来得れば、もうそれでよいのじゃ。しかし、それがなかなかにむずかしい。むずかしいがゆえに世の騒ぎが絶えぬ」
「…………」
「何じゃ。物足りぬ顔つきじゃな。ま、よろしい、若いころは何事につけてももの足りぬものよ」
池波正太郎 「さむらい劇場」
30そこそこの、まだまだ若造な私ですが、
「いや、まったくそのとおり・・・」
と思うのです。
ある人から見れば、
「それはさすがに枯れすぎだ」
そう苦笑されてしまうかもしれませんが、池波正太郎の言葉を借りれば、まさに、
「このことにつきる・・・」
だと髭坊主の30男は思うのです。
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